サラ・ルーカスとは何者か - 毎日新聞の論点

25日、毎日新聞が論点という連載でイルカ漁を取り上げていたようだ。著名な先生方のコメントの他、場違いな人物のコメントがあったため、この主張に対し反論する。

論点:イルカ追い込み漁と水族館
毎日新聞 2015年09月25日 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20150925ddm004070019000c.html

まず、前葛西臨海水族園園長の西源次郎先生のコメント。西先生は日本の水族館の発展に大変尽力された方で、私自身も講義を受けたことがある。

次は鯨類に関する著作をお持ちの吉岡基先生のコメント。先生の名は鯨類の論文においてもその名を拝見することがある。

最後に当ブログでも取り上げている、Australia for Dolphins 代表のサラ・ルーカス(Sarah Lucas)のコメント。国内の反捕鯨団体はオファーを断ったのか、この人物がメディアに取り上げられるのは奇異なものである。
Australia for Dolphins は自称リック・オバリー(Richard Barry O'Feldman)やエルザ自然保護の会(代表:辺見栄)、サークリット(代表:坂野正人)、シーシェパードらが制作を主導した映画、 THE COVE の放映後に活動を始めた団体である。サラ・ルーカスはオーストラリアの資産家、アラステア・ルーカス(Alastair Lucas、2015年7月6日死亡)の娘で、団体は明確に太地町のイルカ漁を停止させることを謳っている。

以下はルーカスの主張に対する私の反論である。


高度な神経系や知能を持つイルカは、肉体的な痛みを感じ、恐怖や悲しみといった感情を抱く。これは科学的な研究で明らかだ。

肉体的な痛みを感じるのはイルカだけに限らない。感情とは外界に対する反応で、神経系を持つ動物すべてに言えることであり、ことさら「科学的な研究」などと強調する事項ではない。


漁では高速ボートでイルカを追う。必死で逃げ惑うイルカの中には、筋肉が破断したり、心停止したりするものもいる。

太地町で行われている追い込み漁は高速ボートで追うものではない。金属管の音で追い立て、鯨類の遊泳速度に合わせて湾へと追うものであり、その速度に追いつけない個体が途中で逃れていることや、湾内に入ってからも逃れる個体がいることを、追い込み漁に否定的な意見を持つ鯨類研究者の粕谷俊雄先生が著作に残している。「筋肉が破断したり、心停止したりする個体」の存在は氏の著作や漁業者の証言にもないもので根拠がない。


食肉用のイルカは(死に至る時間を短縮するために)ナイフで脊髄(せきずい)を突いて切断しているが、太地町では傷口に木栓を押し込む。湾内に血が広がるのを防ぎ、残虐さを隠すためだが、このためにイルカは徐々に死ぬことになる。最新の獣医学研究では、致死時間は少なくとも7分で、「トラウマや苦痛のレベルが最も高い」と結論づけている。

脊髄切断用の器具を栓と勘違いしているのではないか。最新の獣医師学研究の結論とやらがどこの誰のものなのか、ぜひ公表していただきたいものだ。


指摘したいのは、今日の追い込み漁が巨大なビジネスになっていることだ。水族館に売られるイルカには(最終的に)1頭4万ドル(約480万円)以上の値が付く。食肉用に年1000頭近くが捕獲されているが、こちらは1頭数百ドルにしかならない。イルカ肉は限られた地域で食べられるだけで、そこでさえ需要は減っているからだ。食料供給が漁の目的の一つという主張は筋が通らない。

指摘したいのは、水族館に売られるイルカには経費がかかるため高額になっているだけであり、巨大なビジネスではないということだ。サラ・ルーカスの父、故アラステア・ルーカスはケニアにシロサイを輸送するのに$100,000 を支払っているが、それと同じことではないのか。年間1000頭近くが食肉用に捕獲されているのであれば、かなりの需要が残っていると言えよう。


例えば水族館のイルカは水槽の中を必死に行ったり来たりし、昏睡(こんすい)したように力なく浮遊するなど、同じ行動を反復する。これはストレスと関連した行動で、野生ではほとんどみられない。

水族館は野生ではないのでそのような行動がみられないのは当然であろう。野生下では摂餌や水面の変化、外敵からの逃避など常に遊泳を続けなければならない状況であることを考えられないのか。


世界動物保護協会によると、生け捕りにされたイルカは3カ月で半数が死ぬ。短期間で死ぬイルカを水族館に毎年補充するために、追い込み漁が続けられてきたのが現実ではないか。

どの地域において、どの種のイルカを指しているのか。日本では水族館に搬入された個体が3カ月で死亡するという例のほうが珍しい。2015年時点で日本では500頭以上の飼育個体が確認されているが、過去5年の国内への補充数は年間60~70頭程度であり、その交換率は10数パーセントと野生下の死亡率と比べて極端に高いものではないと考える。


水族館やショーでなくても、日本では伊豆諸島の御蔵島で野生イルカと一緒に泳ぎ、自然に生きるイルカについて学べる。その方が、不自然な水槽の中で苦しむイルカを見るよりはるかに教育的だ。

では、御蔵島へ行かれたら良い。船の定期便はあるが、東京から6~7時間。気象条件により左右され欠航することもしばしばある。運賃は7000~20000円で移動だけで水族館の入園料の3倍以上。船酔いに耐えながらの弾丸ツアーでも2日は要する。野生下での生存競争に耐えられずに御蔵島に定住した個体群と泳ぐことが教育的だとは私は思わない。


もちろん、私たちは異なる文化には敬意を払うべきだ。だが、太地町でイルカの追い込み漁が始まったのは1969年で、古代からの文化や伝統ではない。たとえ「文化」だとしても、現代の価値観に合わなくなった文化は博物館で記録に残すことで人々の記憶の中に生き続ける。中止はむしろ、自然を敬い、動物を保護するという本当の意味での日本の伝統を守ることになる。

太地町でイルカの追い込み漁が始まったのは1969年ではない。1969年にはくじらの博物館への生体納入のために記録が残っているだけであり、明治政府の発足前から戦後漁協が編成されるまで網での捕獲があったことが記録に残っている。現在の追い込み漁以前は捕鯨砲や銃器による捕獲が主で、これらが制限されたゆえに現在の形式がある。これこそ時代によって姿を変えてきた敬意を払うべき文化であり、その捕獲実績は小型鯨類の生存状況を証明する貴重な記録でもあり、中止すべき理由はない。

サラ・ルーカスら
http://video.au.msn.com/watch/video/the-killing-cove/x080bq5 より
2014年2月9日にくじらの博物館への入館を拒否されたために670万円の慰謝料を請求したルーカスらだが、2014年2月14日に放映された映像にはサラ・ルーカス(左)、故アラステア・ルーカス(中央)の両名が博物館内にいる様が映っている。この映像は当初、博物館側が人種、思想などを理由に入館拒否をしなかったという証拠となる。このように敷地内で無許可でテレビ番組を収録するという迷惑行為を行っておきながら訴訟を起こすことがイルカのためになるのか疑問である。故人に鞭打つつもりはないが、ゴールドマン・サックス・オーストラリアの重役であったアラステア・ルーカスがこのような活動をしていたことには憤りを覚える。


WAZA や JAZA の決定を私は歓迎しない。本件では繁殖個体についても論じられているが、鯨類の種別の繁殖具合が分析されていない。例えば、日本では繁殖が極めて難しいゴンドウクジラやカマイルカも多く飼育しているが、欧米でははどうなのか。欧米では隣国とのトレードも可能であり、出生のロンダリングも行える。また、イルカの飼育を法的に放棄している国もあるが、宗教上の理由が関係していないのか。イギリスではビクトリア朝時代にイルカの飼育をしているが、雄の個体がしばしば性器を露出するということで飼育を禁じられた。そのような背景を持つ国は鯨類の飼育に否定的になるのは当然の成り行きであろう。
2015年、米国に500頭以上、メキシコに300頭以上、欧州に269頭、中国に294頭、その他の国に少なくとも900頭以上の飼育が確認されているが、これら飼育個体の出生はどうなのか?島国であり、食文化を持つ日本の追い込み漁だけが批判されるいわれはあるのか?

私は今後も漁業や水族館、研究を通じて鯨類と関わる人々を支援する所存である。


関連エントリ
サラ・ルーカスとは何者か - 財務状況を公表しない訴訟目的の団体 Australia For Dolphins

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