リック・オバリーとシーシェパード - Ric O'Barry and Sea shepherd
18日、成田空港で自称リック・オバリー(Rechard Barry O'Feldman)が上陸を許可されず、足止めをされているとの報道が出ている。自称リック・オバリーは観光目的で来日したと主張しているようだが、シーシェパードとの関連が疑われているという。
2003年にポール・ワトソンの要請で来日していた
自称リック・オバリーはシーシェパードの構成員ではないが、シーシェパードと近い関係にある人物である。オバリーは否定しているようだが、2003年10月の来日は国際指名手配中のシーシェパードの元代表ポール・ワトソンの要請であった。このことは、イルカ漁は残酷か(伴野準一、平凡社、2015年8月11日)に詳細が記されている。下記は167項、168項からの引用である。
(引用始め)
二〇〇三年一〇月、リック・オバリーは、サンフランシスコで開催された活動家ミーティン
グに参加していた。ミーティングの幹事はアース・アイランド協会のデヴィット・フィリップ
スである。フィリップスは一九九〇年代に何百万ドルという募金を得て、ハリウッド映画『フ
リー・ウィリー』に使われたケイコと名付けられたシャチを野生へ戻すことに成功したイルカ
保護活動家の大物だった。
ミーティングでは世界中からやってきた百数十人のイルカ活動家が、イルカ水族館などで終
身刑に処せられている(と彼らが考える)イルカを解放するための運動の進捗を議論し、今後
の戦略を練ろうとしていた。
ミーティングの最中、オバリーの携帯が鳴った。シーシェパードのポール・ワトソンからだ
った。
「私は今も彼の言葉を正確に覚えているよ」とオバリーはいう。「素晴らしいことになってい
る。彼はそういったんだ」
シーシェパードはその年二〇〇三年から太地に駐在員を置いて追い込み漁の模様を記録しよ
うとしていたが、そのとき太地に滞在しているボランティアは一人だけで、しかもそのボラン
ティアは(二〇一五年現在廃業となっている)太地のトレーラーハウスパークのトレーラーを借
りて寝泊まりしているという。他の宿泊客はゼロだった。彼の身に何か起きたら大変だ。ミー
ティングの参加者から太地に行ってくれるボランティアを一人募ってくれないか。それがポー
ル・ワトソンの依頼だった。
オバリーはワトソンの依頼をミーティングにかけてみたが、誰の手も挙がらなかった。
「それで私が行くことにした。ミーティングの参加者に帽子を回してカンパを集めて旅費に
した。ワトソンは金を出さなかった」
(引用終わり)
ご覧のように、自称リック・オバリーはポール・ワトソンの言葉を「正確に覚えている」と伴野氏に証言していた。自称オバリーが和歌山県東牟婁郡に訪れたのはこの時が2度目のことであるという。

映画 THE COVE に出演した国際指名手配中元シーシェパード代表ポール・ワトソン
SNS でも自称リック・オバリーを2003年に太地町へ送ったと証言。
作中で国際捕鯨委員会IWC をクジラの保護団体だと主張しているがそれは誤りであり、IWC は捕鯨を適正に行うために設立された国際機関である。
太地町での活動はポール・ワトソンの要請以降
自称リック・オバリーはこの前の月にも来日している。2003年9月1日~11日の間、坂野正人が主宰するサークリットという集団がオバリーを招聘し、静岡県、愛知県で講演会などのイベントを開催していた。自称オバリーが太地町での活動を本格化させたのはポール・ワトソンの要請以降のことである。
同年2003年11月18日、シーシェパードの構成員のアレックス・コーネリソン (Alex Cornelissen/Cornelisson)、アリソン・ワトソン(Allison Lance Watson、ポール・ワトソンの前妻、テロ組織ストップ・ハンティンドン・アニマル・クルエルティSHAC および動物解放戦線 ALFの構成員)がイルカ漁の網を破損し、和歌山県警に逮捕された。
同年2003年12月12日、映画フリー・ウィリー(Free Willy)に出演したケイコと名付けられたシャチがノルウェーのタクネス湾で死亡したため、活動目的を失ったアースアイランド研究所やその活動に協力していたエルザ自然保護の会などは日本のイルカ漁に焦点を絞ることとなったのだろう。
※22日追記
米国内ではポール・ワトソンと行動
自称リック・オバリーは2003年以降もポール・ワトソンと交流を持っていた。インターネット上では次のような写真が存在している。

http://www.seashepherd.it/news-and-media/news-070530-1.html より
2007年、第59回国際捕鯨委員会年次総会で写真をとるポール・ワトソンと自称リック・オバリーら

www.gettyimages.co.jp より
2013年、The Ghosts In Our Machine という動物福祉を題材にしたドキュメンタリ映画の上映会にて
ポール・ワトソンと自称リック・オバリー
自称リック・オバリーはシーシェパードの構成員ではないが、過去にポール・ワトソンとは携帯電話で連絡し合う仲であり、シーシェパードの構成員と行動を共にしていたことは疑いようのない事実であろう。国際指名手配犯であるポール・ワトソン元代表と非常に近しい仲であることは明白だ。そうなると自称リック・オバリーと接点のある日本国内の団体個人も疑わしくなる。
これ以外にもその他、多くの事由が審査にひっかかっていることだろう。今回の異議申し立てとやらが通用するのかどうか、担当弁護士のお手並み拝見といこうではないか。
2003年にポール・ワトソンの要請で来日していた
自称リック・オバリーはシーシェパードの構成員ではないが、シーシェパードと近い関係にある人物である。オバリーは否定しているようだが、2003年10月の来日は国際指名手配中のシーシェパードの元代表ポール・ワトソンの要請であった。このことは、イルカ漁は残酷か(伴野準一、平凡社、2015年8月11日)に詳細が記されている。下記は167項、168項からの引用である。
(引用始め)
二〇〇三年一〇月、リック・オバリーは、サンフランシスコで開催された活動家ミーティン
グに参加していた。ミーティングの幹事はアース・アイランド協会のデヴィット・フィリップ
スである。フィリップスは一九九〇年代に何百万ドルという募金を得て、ハリウッド映画『フ
リー・ウィリー』に使われたケイコと名付けられたシャチを野生へ戻すことに成功したイルカ
保護活動家の大物だった。
ミーティングでは世界中からやってきた百数十人のイルカ活動家が、イルカ水族館などで終
身刑に処せられている(と彼らが考える)イルカを解放するための運動の進捗を議論し、今後
の戦略を練ろうとしていた。
ミーティングの最中、オバリーの携帯が鳴った。シーシェパードのポール・ワトソンからだ
った。
「私は今も彼の言葉を正確に覚えているよ」とオバリーはいう。「素晴らしいことになってい
る。彼はそういったんだ」
シーシェパードはその年二〇〇三年から太地に駐在員を置いて追い込み漁の模様を記録しよ
うとしていたが、そのとき太地に滞在しているボランティアは一人だけで、しかもそのボラン
ティアは(二〇一五年現在廃業となっている)太地のトレーラーハウスパークのトレーラーを借
りて寝泊まりしているという。他の宿泊客はゼロだった。彼の身に何か起きたら大変だ。ミー
ティングの参加者から太地に行ってくれるボランティアを一人募ってくれないか。それがポー
ル・ワトソンの依頼だった。
オバリーはワトソンの依頼をミーティングにかけてみたが、誰の手も挙がらなかった。
「それで私が行くことにした。ミーティングの参加者に帽子を回してカンパを集めて旅費に
した。ワトソンは金を出さなかった」
(引用終わり)
ご覧のように、自称リック・オバリーはポール・ワトソンの言葉を「正確に覚えている」と伴野氏に証言していた。自称オバリーが和歌山県東牟婁郡に訪れたのはこの時が2度目のことであるという。

映画 THE COVE に出演した国際指名手配中元シーシェパード代表ポール・ワトソン
SNS でも自称リック・オバリーを2003年に太地町へ送ったと証言。
作中で国際捕鯨委員会IWC をクジラの保護団体だと主張しているがそれは誤りであり、IWC は捕鯨を適正に行うために設立された国際機関である。
太地町での活動はポール・ワトソンの要請以降
自称リック・オバリーはこの前の月にも来日している。2003年9月1日~11日の間、坂野正人が主宰するサークリットという集団がオバリーを招聘し、静岡県、愛知県で講演会などのイベントを開催していた。自称オバリーが太地町での活動を本格化させたのはポール・ワトソンの要請以降のことである。
同年2003年11月18日、シーシェパードの構成員のアレックス・コーネリソン (Alex Cornelissen/Cornelisson)、アリソン・ワトソン(Allison Lance Watson、ポール・ワトソンの前妻、テロ組織ストップ・ハンティンドン・アニマル・クルエルティSHAC および動物解放戦線 ALFの構成員)がイルカ漁の網を破損し、和歌山県警に逮捕された。
同年2003年12月12日、映画フリー・ウィリー(Free Willy)に出演したケイコと名付けられたシャチがノルウェーのタクネス湾で死亡したため、活動目的を失ったアースアイランド研究所やその活動に協力していたエルザ自然保護の会などは日本のイルカ漁に焦点を絞ることとなったのだろう。
※22日追記
米国内ではポール・ワトソンと行動
自称リック・オバリーは2003年以降もポール・ワトソンと交流を持っていた。インターネット上では次のような写真が存在している。

http://www.seashepherd.it/news-and-media/news-070530-1.html より
2007年、第59回国際捕鯨委員会年次総会で写真をとるポール・ワトソンと自称リック・オバリーら

www.gettyimages.co.jp より
2013年、The Ghosts In Our Machine という動物福祉を題材にしたドキュメンタリ映画の上映会にて
ポール・ワトソンと自称リック・オバリー
自称リック・オバリーはシーシェパードの構成員ではないが、
これ以外にもその他、多くの事由が審査にひっかかっていることだろう。今回の異議申し立てとやらが通用するのかどうか、担当弁護士のお手並み拝見といこうではないか。
スポンサーサイト
日本警察は大丈夫か? - 精鋭部隊の装備運用は改善
警察の不祥事や失態には失望させられているが、朗報もある。昨年12月22日に公開された警視庁/神奈川県警特殊急襲部隊の射撃訓練では装備、運用ともに改善が見られた。
時事通信社 Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=jKBD0PQNa9I より
この訓練では拳銃の左右撃ち変え、再装填動作、左肩に銃床を当てての射撃、100mからの局部射撃など、これまで公開された訓練より実戦的なものとなっていた。MP5にもレールシステムに一部グリップライトを装着し、光学照準はEOTech ホログラフサイトとなっていた。EOTech は2007年にも確認されているが、照準器の後部にブースターを装着させての射撃は初めて認められた。

Strike And Tactical 2015年5月号 64項 大塚正諭氏 撮影の写真より
これまで公開されていたERTなどのMP5はハイマウントにマウントを重ねるというクソみたいな仕様である。
EOTech には高さがあり、このような妙な取り付け方をする必要はない。
ただ、EOTech はM16、M4などのAR系自動小銃での運用で不具合があったため米軍は敬遠しているようだ。
しかし、この訓練でもMP5の全自動射撃はなされておらず、他国の治安維持部隊に比べ火力不足を思わせる。MP5は機関部の消耗でHK社による保守が必要となるため、バリバリ撃てるものではないのは知っている。しかし、欧米の警察は重装化するテロリスト対策でAR系の自動小銃の配備を増やしており、テロ実行犯のほとんどを軍隊張りの火力で射殺している。SAT も64式/89式小銃、あるいは選定/秘匿中のAR系小銃などによる訓練を公開しなければならなくなる日が、そう遠くないのかもしれない。
関連エントリ
日本警察は大丈夫か? - パトカーや拳銃を奪われている場合ではない
日本警察は大丈夫か?
時事通信社 Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=jKBD0PQNa9I より
この訓練では拳銃の左右撃ち変え、再装填動作、左肩に銃床を当てての射撃、100mからの局部射撃など、これまで公開された訓練より実戦的なものとなっていた。MP5にもレールシステムに一部グリップライトを装着し、光学照準はEOTech ホログラフサイトとなっていた。EOTech は2007年にも確認されているが、照準器の後部にブースターを装着させての射撃は初めて認められた。

Strike And Tactical 2015年5月号 64項 大塚正諭氏 撮影の写真より
これまで公開されていたERTなどのMP5はハイマウントにマウントを重ねるというクソみたいな仕様である。
EOTech には高さがあり、このような妙な取り付け方をする必要はない。
ただ、EOTech はM16、M4などのAR系自動小銃での運用で不具合があったため米軍は敬遠しているようだ。
しかし、この訓練でもMP5の全自動射撃はなされておらず、他国の治安維持部隊に比べ火力不足を思わせる。MP5は機関部の消耗でHK社による保守が必要となるため、バリバリ撃てるものではないのは知っている。しかし、欧米の警察は重装化するテロリスト対策でAR系の自動小銃の配備を増やしており、テロ実行犯のほとんどを軍隊張りの火力で射殺している。SAT も64式/89式小銃、あるいは選定/秘匿中のAR系小銃などによる訓練を公開しなければならなくなる日が、そう遠くないのかもしれない。
関連エントリ
日本警察は大丈夫か? - パトカーや拳銃を奪われている場合ではない
日本警察は大丈夫か?
日本警察は大丈夫か? - パトカーや拳銃を奪われている場合ではない
昨年11月13日のフランスのテロ以降情勢が大きく変わった。日本においても民間レベルでの意識は高くなり、私のような末端の人間ですら業務量の増加を感じる。このような情勢において、報道される警察の失態には失望させられている。もはや制服で相手に威圧感を与えることができる時代ではない。むしろ、現場の連中は標的なのだと自覚する必要がある。
パトカーを奪われる、警視庁
2015年11月30日、東京都稲城市役所で税金滞納中の男が放火した後、パトカーに乗車発進させた事件では警察対応の一部始終が動画で撮影されている。
この動画だけでも、警察官の対応の不味さがいくつも指摘できる。
まず、火と刃物を現認しているのにも関わらず、周辺の人々に避難を強く呼びかけていないこと。「ナイフ待ってます」「下がって下がって」の呼び声だけでは野次馬を遠ざけることができない。人員を割いて制止させ続けなければならなかっただろう。それができていなかったために一部始終を動画で撮影されてしまっている。
第二に、対象者への威嚇が弱い。「武器を捨てろ」「撃つぞ」の警告で従わないような対象は物理的に制止するしかない。銃を見ても脅威を覚えない対象に対しては、警棒や警杖、刺又などに切り替えて打撃を与え、その行動を制止するしかない。
第三に、パトカーのキーを抜いていないこと。時間短縮のためなのか、警察官は現着時にエンジンをかけっ放しでいることがほとんどだが、この行為は極めて危険である。組織的な犯罪であった場合、パトカーは逃走手段として利用されかねないからだ。稲城市役所の件では、単独の対象を制止できないままパトカーに乗車され、発進まで許してしまっている。
私自身は他人をホールドアップさせた経験が二度ある。
一度目は陸上自衛隊での捕縛訓練の経験が非常に役に立った。「動くな!」「膝を着け、臥せれ!」「動くな、臥せれ!」合間入れず怒鳴り散らし、相手が劣勢であることを悟らせた。このときの相手は素直に従い膝を着いたがそれだけでは終わらせなかった。「手に持ったもん捨てろ!」「動くな、臥せれ!」「何人いる?あと何人だ!?」しかるべきところに引き渡すまでは威嚇を続け情報を引き出し、脅威を排除していく。この時の奴は単独犯で、後の検査で刃物を所持していたことがわかった。
二度目は外国人であったが手に凶器となるものを持っていた。私は英語が分かったので「Freeze!Don't move!」と怒鳴り動きを止めた。その後、「Put your ××, please!」と続け相手もそれで状況が分かったらしく、「OK, sorry I'm not robbery」と手に持った凶器を地面に置いた。
いずれも抵抗するようであれば前蹴りをくれて再度警告するつもりで臨んだ。
動画の警官らの対応はどうか?威嚇も散発的で、ゆっくり歩く男の行動を制止できていない。パトカーが別のパトカーに衝突するまで手を打てず、捕縛の時ですら手袋していなかったために手袋を要求する始末。束になって取り押さえたはいいが、役割分担をしっかりしていなかったため最後になってようやく撮影者に注意を促す始末。警視庁は霞が関のデモ対策に力を入れる前に現場の人員の能力底上げに努めるべきだろう。
拳銃を奪われる、神奈川県警
1月14日、神奈川県横須賀市の団地で警官が37歳の男に銃を奪われ負傷した事件が報道された。インターネット上では「撃たれながらも犯人を取り押さえた警察はすごい」という意見もあるようだが、これは大問題である。日本の警察官が携行している拳銃は装弾5発の回転拳銃であることがほとんどだが、安全対策のために初弾を抜いているケースがある。4発発射したということは全弾を発射されたということだ。男が銃を奪い5回は引き金を引いたことになる。つまり、男が全弾撃ち尽くすまで警官は抵抗できなかったということになる。
対象の男は精神疾患があるようで、やや大柄である。このような相手とは取っ組み合いにならないようにするべきであった。団地の廊下のような狭いところでは警棒を抜いて、打突で近づけないようにけん制する必要があっただろう。
最悪、組み合った際にも銃を奪われないようにする配慮が必要だ。組みつかれてしまえば拳銃に装着されたランヤードなど役に立たない。頭突きでも膝蹴りでもなんでも良いので振りほどき、警棒や拳銃を抜き、間合いを取りなおさなくてはならない。型通りの逮捕術など現場では通用しない。
神奈川県警が拳銃を奪われたのはこれが初めてではない。2008年には南足柄市で少年らと格闘した際に拳銃と手錠を奪われている。これについて該当の警察官は処分を受けていないというが、奪われた拳銃が次の犯罪に使われかねない重大な事案であったと考える。反撃を恐れ、警官から拳銃を奪った少年らの行動の方が危機回避という意味では適切であった。現場の警官はもっと泥臭い技術や知識を学んだほうが良いのではないか。
本格的なテロリストは制服を狙う
制服を着た現場隊員はもはや標的だ。警官が襲撃され、拳銃を強奪された事案は少なくない。本格的なテロリストや他国のゲリラコマンド、知能が高い犯罪者は、警察官や自衛隊員の制服や銃を奪い、重要拠点に潜入することを画策している可能性がある。その脅威度は応用が利き、拳銃を携行している警察の方が高い。テロへの警戒が求められている現在、制服を着た人員は注意が必要だ。平時から単独犯にパトカーや拳銃を奪われているようでは、計画されたテロは防げないと肝に銘じてほしい。
パトカーを奪われる、警視庁
2015年11月30日、東京都稲城市役所で税金滞納中の男が放火した後、パトカーに乗車発進させた事件では警察対応の一部始終が動画で撮影されている。
この動画だけでも、警察官の対応の不味さがいくつも指摘できる。
まず、火と刃物を現認しているのにも関わらず、周辺の人々に避難を強く呼びかけていないこと。「ナイフ待ってます」「下がって下がって」の呼び声だけでは野次馬を遠ざけることができない。人員を割いて制止させ続けなければならなかっただろう。それができていなかったために一部始終を動画で撮影されてしまっている。
第二に、対象者への威嚇が弱い。「武器を捨てろ」「撃つぞ」の警告で従わないような対象は物理的に制止するしかない。銃を見ても脅威を覚えない対象に対しては、警棒や警杖、刺又などに切り替えて打撃を与え、その行動を制止するしかない。
第三に、パトカーのキーを抜いていないこと。時間短縮のためなのか、警察官は現着時にエンジンをかけっ放しでいることがほとんどだが、この行為は極めて危険である。組織的な犯罪であった場合、パトカーは逃走手段として利用されかねないからだ。稲城市役所の件では、単独の対象を制止できないままパトカーに乗車され、発進まで許してしまっている。
私自身は他人をホールドアップさせた経験が二度ある。
一度目は陸上自衛隊での捕縛訓練の経験が非常に役に立った。「動くな!」「膝を着け、臥せれ!」「動くな、臥せれ!」合間入れず怒鳴り散らし、相手が劣勢であることを悟らせた。このときの相手は素直に従い膝を着いたがそれだけでは終わらせなかった。「手に持ったもん捨てろ!」「動くな、臥せれ!」「何人いる?あと何人だ!?」しかるべきところに引き渡すまでは威嚇を続け情報を引き出し、脅威を排除していく。この時の奴は単独犯で、後の検査で刃物を所持していたことがわかった。
二度目は外国人であったが手に凶器となるものを持っていた。私は英語が分かったので「Freeze!Don't move!」と怒鳴り動きを止めた。その後、「Put your ××, please!」と続け相手もそれで状況が分かったらしく、「OK, sorry I'm not robbery」と手に持った凶器を地面に置いた。
いずれも抵抗するようであれば前蹴りをくれて再度警告するつもりで臨んだ。
動画の警官らの対応はどうか?威嚇も散発的で、ゆっくり歩く男の行動を制止できていない。パトカーが別のパトカーに衝突するまで手を打てず、捕縛の時ですら手袋していなかったために手袋を要求する始末。束になって取り押さえたはいいが、役割分担をしっかりしていなかったため最後になってようやく撮影者に注意を促す始末。警視庁は霞が関のデモ対策に力を入れる前に現場の人員の能力底上げに努めるべきだろう。
拳銃を奪われる、神奈川県警
1月14日、神奈川県横須賀市の団地で警官が37歳の男に銃を奪われ負傷した事件が報道された。インターネット上では「撃たれながらも犯人を取り押さえた警察はすごい」という意見もあるようだが、これは大問題である。日本の警察官が携行している拳銃は装弾5発の回転拳銃であることがほとんどだが、安全対策のために初弾を抜いているケースがある。4発発射したということは全弾を発射されたということだ。男が銃を奪い5回は引き金を引いたことになる。つまり、男が全弾撃ち尽くすまで警官は抵抗できなかったということになる。
対象の男は精神疾患があるようで、やや大柄である。このような相手とは取っ組み合いにならないようにするべきであった。団地の廊下のような狭いところでは警棒を抜いて、打突で近づけないようにけん制する必要があっただろう。
最悪、組み合った際にも銃を奪われないようにする配慮が必要だ。組みつかれてしまえば拳銃に装着されたランヤードなど役に立たない。頭突きでも膝蹴りでもなんでも良いので振りほどき、警棒や拳銃を抜き、間合いを取りなおさなくてはならない。型通りの逮捕術など現場では通用しない。
神奈川県警が拳銃を奪われたのはこれが初めてではない。2008年には南足柄市で少年らと格闘した際に拳銃と手錠を奪われている。これについて該当の警察官は処分を受けていないというが、奪われた拳銃が次の犯罪に使われかねない重大な事案であったと考える。反撃を恐れ、警官から拳銃を奪った少年らの行動の方が危機回避という意味では適切であった。現場の警官はもっと泥臭い技術や知識を学んだほうが良いのではないか。
本格的なテロリストは制服を狙う
制服を着た現場隊員はもはや標的だ。警官が襲撃され、拳銃を強奪された事案は少なくない。本格的なテロリストや他国のゲリラコマンド、知能が高い犯罪者は、警察官や自衛隊員の制服や銃を奪い、重要拠点に潜入することを画策している可能性がある。その脅威度は応用が利き、拳銃を携行している警察の方が高い。テロへの警戒が求められている現在、制服を着た人員は注意が必要だ。平時から単独犯にパトカーや拳銃を奪われているようでは、計画されたテロは防げないと肝に銘じてほしい。